糖尿病の飲み薬 No.1
ドクターコラム
「糖尿病のこんな飲み薬がほしい」
糖尿病が経口剤(飲み薬)でよくなることは誰もが望むことです。
そしてその期待に応えるべく多くの飲み薬が使えるようになっています。
膵臓に直接働いてインスリン分泌を促す薬、食事に含まれる糖質の分解を妨げ食後の血糖上昇を緩やかにする薬やインスリンの効きをよくする薬など、糖尿病の状態に応じて血糖を下げるよいお薬があります。
それでも、飲み薬による治療は今いろいろな壁に直面しています。
糖尿病の飲み薬による治療には次のような限界があると思われます。
1) 低血糖の不安がある
2) 食後血糖はいろいろな要素で決定されるのでコントロールは難しい
3) 飲み薬によってはどうしても体重が増える
4) 膵ベータ細胞機能(膵臓のインスリンを作る能力)の疲弊が避けがたい
(Diabetes Frontier,18,2007掲載のC.H.Wysham先生の論文を参考にしました。)
糖尿病の治療を受けておられる方は1)3)は実感されていることと思います。
私たち糖尿病の専門医は今あらためて2)4)の課題の克服が重要であると考えています。
今回は4)に焦点を合わせて考えたいと思います。図を見てください。
この図は縦軸に膵ベータ細胞機能を、横軸に糖尿病と診断されてからの年数を示しています。
UKPDSと呼ばれる2型糖尿病を対象にして糖尿病治療の良否が合併症の発症に影響するかを調べた研究の参加者のデータから推定しています。
膵ベータ細胞機能(膵臓のインスリンを作る能力)は 空腹時血糖とインスリン値からある計算式で求めています。
この図からわかるように、糖尿病と診断された時点で既に膵臓のインスリンを分泌する能力は半分になっています。そこからその能力は治療の良否にかかわらず直線的に落ちていきます。
このことは、治療経過とともに血糖コントロール目標の達成が次第に難しくなり、飲み薬の量や種類がどうしても増えていくことを意味しています。
今まで、この疲弊の進行を止めるお薬はありませんでした。むしろお薬によってはそれを進行することがあります。
(とくに膵臓に直接働いてインスリン分泌を促す薬)
血糖を下げることを代償に糖尿病をだんだん悪化させているともいえるでしょうか。
今糖尿病の新しい薬が登場しようとしています。
この薬は今までの薬にないいろいろな利点を持っているのですが、その中でも膵ベータ細胞機能を 回復させる作用が注目されています。上の課題4)を解決する可能性があるのです。インクレチン関連薬剤と呼ばれています。
次回からこの薬を紹介したいと思います。